発達障害児の自傷行為や強い衝動に向き合う保護者さまへ ─ 理解と対応の実践ガイド

目次
はじめに:毎日必死で向き合っている保護者さまへ
「どうして止められないのだろう」「この子は、この先どうなってしまうのだろう」
自分の身体を叩いてしまう。壁を強く叩き、物を投げてしまう。止めようとすればするほど、かえって激しくなる──そんな姿を前に、恐怖・不安・無力感、そして罪悪感を抱えながら、今日も必死にお子さまを守っていらっしゃることと思います。
周囲にはなかなか理解されず、「しつけの問題では?」「親の関わり方では?」そんな言葉に、さらに心をすり減らしてしまうこともあるかもしれません。
まずお伝えしたいのは、保護者さまは決して間違っていないということです。
発達障害は生まれつきの脳機能の特徴によるものであり、育て方やしつけが原因ではありません。これは多くの研究によって明らかになっていることです。この記事では、自傷行為や激しい行動の背景にあるものを理解し、ご家庭で実践できる具体的な対応方法をお伝えします。
自傷行為は「困らせたい」のではありません
自傷行為や激しい行動は、わがままでも反抗でもありません。多くの場合、以下のようなサインとして表れています。
- 言葉で伝えられない苦しさ
- 感覚の過敏さや不快感
- 不安や混乱が限界を超えたサイン
お子さま自身も、「どうしてこうなるのか分からない」「止めたいのに止められない」という状態の中で、必死にもがいているのです。
発達障害と自傷行為の関連性
知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)のある方に自傷行動がみられることがあります。特によく見られるのは、頭を床や壁にぶつける、頭や顔を手でたたく、自分の手をかむ、髪の毛を抜くといった行動です。
これらは思春期以降にみられることのあるリストカットなどの自傷行為とは性質が異なり、障害の特徴と周囲の環境が影響することで生じるものです。そのため、対応方法も異なってきます。
自傷行為の背景を理解する「機能分析」という視点
ABA(応用行動分析学)では、行動には必ず「機能(目的・役割)」があると考えます。お子さまの自傷行為も、何らかの機能を果たしているのです。
自傷行為の4つの機能
1. 注目獲得 周囲の大人の関心を引くための手段として自傷行為が起こることがあります。自傷をすると親が駆け寄ってくれる、先生が声をかけてくれるという経験が積み重なると、「自傷すれば注目してもらえる」という学習が起こることがあります。
2. 逃避・回避 嫌なことや苦手な活動から逃れるために自傷行為が起こることがあります。課題の途中で自傷を始めると中断してもらえる、という経験が繰り返されると、この行動が強化されてしまいます。
3. 自己刺激 感覚的な刺激を得るための行動として自傷が起こることがあります。感覚の鈍麻がある場合、強い刺激を求めて自分を叩いたり噛んだりすることがあります。また、感覚過敏による不快感をごまかすために別の刺激を与えている場合もあります。
4. 物や活動の獲得 欲しいものや、したい活動を手に入れるための手段として自傷行為が起こることがあります。「自傷をすると要求が通る」という経験が積み重なると、この行動パターンが定着してしまうことがあります。
なぜ機能を理解することが大切なのか
同じ「頭を叩く」という行動でも、その背景にある機能が違えば、効果的な対応も変わってきます。例えば、注目獲得が目的の場合は「冷静に対応する」ことが有効ですが、逃避が目的の場合は「課題の難易度を調整する」ことが効果的です。
お子さまの行動をよく観察し、「どんな時に」「どんな状況で」「その後どうなったか」を記録することで、行動の機能が見えてきます。
ご家庭でできる具体的な対応方法

ステップ1:まずは安全を最優先に
自傷行為が起きているときに最も重要なのは、お子さまへの被害を最小限に抑えることです。
環境の安全確保
- 壁や床に頭を打ちつける行動がある場合は、クッションやマットを用意する
- ヘルメットや保護帽子を活用する
- 自傷しやすい場面では、危険な物(硬いもの、尖ったもの)を遠ざける
その場での対応
- 無理やり力で押さえつけない(かえってエスカレートすることがあります)
- 大きな声で叱らない(過剰な反応がさらなる刺激になることがあります)
- 安全を確保したうえで、落ち着くのを静かに見守る
叱る・制止する前に、まず「守ること」を第一に考えてください。
ステップ2:行動の記録をつける
お子さまの自傷行為のパターンを知るために、以下の項目を記録してみましょう。
- いつ:時間帯、曜日、活動の前後など
- どこで:場所、環境
- 何があったか:直前に起きたこと、きっかけになった出来事
- どんな行動が起きたか:具体的な自傷行為の内容
- その後どうなったか:周囲の反応、結果として何が起きたか
- 体調:睡眠状況、食事、疲労度、体調の変化
1~2週間記録を続けると、パターンが見えてくることがあります。「疲れている日の夕方に多い」「特定の課題の前に起きやすい」など、予防のヒントが見つかるかもしれません。
ステップ3:環境調整で予防する
自傷行為の原因となるストレスをできる限り取り除く工夫をしましょう。
感覚面の調整
- 音量や照明など、感覚的な刺激を調整する
- 苦手な音がある場合はイヤーマフを活用する
- 視覚的に落ち着く色合いの空間を用意する
見通しを持たせる
- 1日のスケジュールを視覚的に示す
- 活動の切り替え前に予告する(「あと5分で終わりだよ」)
- 急な予定変更はできるだけ避ける
クールダウンスペースの設置 ご家庭に「落ち着ける場所」を用意しましょう。ダンボールや簡易テント、好きな布団を敷いたスペースなど、お子さまが安心できる「安全基地」を作ります。お気に入りのぬいぐるみやクッションを置いておくと、より効果的です。
ポイントは、クールダウンスペースを「罰」として使わないことです。「ここに行きなさい!」と怒りながら連れていくのではなく、「落ち着きたくなったら使える場所」として、普段から良いイメージで慣れさせておきましょう。
ステップ4:気持ちを伝える別の方法を教える
自傷行為は、多くの場合「伝えられない気持ち」の表れです。自傷以外の方法で気持ちを表現できるよう、少しずつ練習していきましょう。
コミュニケーション手段の工夫
- 絵カードを使って気持ちを伝える練習をする(「イヤ」「休みたい」「助けて」など)
- 簡単なジェスチャーを決めておく(手を挙げる=「ストップ」など)
- 「いやだ」「つかれた」「やすみたい」など、使える言葉を増やす
クールダウンの方法を教える
- 深呼吸の練習(一緒にゆっくり息を吸って吐く)
- 好きなものを触る(ぬいぐるみ、ブランケットなど)
- 体を動かす(その場で足踏み、ぎゅっと手を握って離すなど)
これらは落ち着いているときに繰り返し練習しておくことが大切です。パニック状態になってから教えようとしても、なかなか入っていきません。
自傷行為が起きてしまったときの対応
やってはいけないNG対応
大きな声で叱る 「ダメでしょ!」「何やってるの!」と感情的に叱ると、お子さまはさらに混乱し、行動がエスカレートすることがあります。
力で押さえつける 無理やり止めようとすると、かえって抵抗が激しくなることがあります。また、お子さまとの信頼関係を損なう可能性もあります。
自傷の直後に要求を通す 自傷行為の後にお菓子をあげたり、嫌な活動を中止したりすると、「自傷すれば要求が通る」という学習につながってしまいます。
約束を強要する 「もうしないって約束して」と言っても、お子さまには難しい場合が多いです。むしろ「約束したのに守れなかった」という罪悪感につながることもあります。
推奨される対応
冷静に、淡々と対応する 感情的にならず、必要な安全確保を粛々と行います。お子さまを責めるのではなく、まず傷の手当てなど必要なケアをしましょう。
落ち着くまで静かに見守る 安全が確保されていれば、無理に声をかけず、落ち着くまで待ちましょう。そばにいるけれど干渉しない、という距離感が効果的なこともあります。
落ち着いたらほめる 自傷行為が止まり、落ち着くことができたら、そのことを具体的にほめましょう。「落ち着けたね」「我慢できたね」「深呼吸できたね」など、できたことに注目します。
専門機関との連携
自傷行為への対応は、保護者さまだけで抱え込む必要はありません。専門家の力を借りることで、より効果的なアプローチが見つかることがあります。
相談できる場所
- 発達障害者支援センター:各都道府県に設置されています
- 児童発達支援センター:療育や相談支援を受けられます
- 児童精神科・小児神経科:医学的な評価と治療を受けられます
- 放課後等デイサービス:専門的な支援を受けながら過ごせます
医療機関を受診する目安
- 自傷行為の頻度が高く、日常生活に支障が出ている
- 怪我の程度が重くなってきている
- ご家庭での対応だけでは改善が見られない
- 保護者さまの心身の負担が大きくなっている
専門家に相談することは、決して「負け」ではありません。お子さまに合った支援を見つけるための、大切な一歩です。
長期的な視点を持つ
すぐに変わらなくても、大丈夫です
行動が落ち着くまでには、時間がかかることがあります。良くなったと思ったら、また戻ることもあります。それでも、「少し前より回数が減った」「気持ちを切り替える時間が短くなった」──そんな小さな変化は、確実に積み重なっていきます。
発達支援の専門家たちは口を揃えて言います。「すぐに変化が見えなくても、適切な対応を続けることで、必ず少しずつ改善していく」と。
保護者さま自身のケアも大切です
毎日、心と身体をすり減らしながら向き合っている保護者さまは、もう十分すぎるほど頑張っています。
- 一人で抱え込まず、相談できる場所を持ちましょう
- 時には休息を取ることも大切です
- ペアレント・トレーニングなど、保護者向けのプログラムに参加するのも一つの方法です
「助けを求めること」は弱さではありません。それは、お子さまを大切に思っている証です。
オメガコースで大切にしていること
私たちの発達支援コースでは、「行動をやめさせる」ことをゴールにはしていません。
安全を最優先に整える 自傷や他害につながりやすい場面の分析、環境調整、危険を最小限に抑える関わり方──まず守ることを第一に考えます。
行動の背景を丁寧に読み取る どんな時に起きやすいのか、その直前に何があったのか、体調との関係は──行動そのものではなく、「その前にあるサイン」を一緒に探していきます。
気持ちを行動以外で出す力を育てる 絵カード、ジェスチャー、簡単な言葉。クールダウンの方法。「今つらい」「休みたい」を伝える練習──少しずつ、叩く・投げる以外の選択肢を増やしていきます。
保護者さまへの具体的なサポート ご家庭での声かけの仕方、危険な場面での関わり方、「これで良かったのか」と悩んだ時の整理──保護者さまがひとりで抱え込まないことも、とても大切にしています。
最後に
もし、「今の状況を少しでも安全にしたい」「この子に合った関わり方を知りたい」──そう感じていらっしゃいましたら、私たちは一緒に考える場所でありたいと思っています。
授業後にはご家庭での声かけや危険な場面での対応についても具体的にお伝えし、保護者さまがひとりで抱え込まずに済むようサポートいたします。
すぐに行動が落ち着かなくても構いません。小さな変化を大切にしながら、お子さまとご家庭に合った関わり方を、時間をかけて一緒に見つけていくことを、オメガコースは大切にしています。
参考情報
主要参考資料
- LITALICO発達ナビ「障害のある人の自傷行動の原因、対処法、自傷行動がみられたときの相談先まとめ」
- 国立特別支援教育総合研究所「特別支援学校(知的障害)に在籍する自閉症児の自傷行為に対する学校コンサルテーション事例の報告」
- コペルプラス「発達障害のある子どもの自傷行動」
専門機関
- 厚生労働省「こころもメンテしよう」
- 各都道府県の発達障害者支援センター
関連記事