
子どもの遊びを大人はどう支援すればいい?

はじめに
一般的に、遊びとは子どもが自発的に行う営みであり、そのために自然発生的なものだともいえるでしょう。「子どもには遊びを発見する力が宿っている」といった言葉も、保育の現場などではしばしば耳にするものです。
しかし、そのようなことは決して、遊びを子どもに放任することを正当化するものではありません。それは、「遊びを通した発達」が求められる幼児教育を念頭に置いた場合には、特にあてはまることです。遊びを子どもに放任するのではなく、大人が子どもの遊びをどれだけ豊かにするように支援できるかどうかが、幼児教育の質には深く関わってくるのです。
では、大人は子どもの遊びをどのように支援すればよいのでしょうか?今回はこのことをテーマとして、ブログを綴っていこうと思います。
遊びと発達の関係性
子どもの遊びと発達の関係性について、何となくの理解はあっても、それが具体的にどのようなものなのかについては曖昧であるという方も多いかと思われます。そこではじめに、遊びと発達の関係性について述べていきます。
発達・学習における遊びの重要性
遊びが子どもの発達や学習において重要であることは、研究により一貫して裏付けられています。幼児期の遊びは、読み書き、科学、社会科、数学などの後の学習の基礎となり、さらには感情の調節、計画する力、記憶力などの認知的な資質にも大きな影響を及ぼします。
幼児教育の現場レベルでもその重要性は認識されていますが、政策レベルにおいても遊びの重要性は確かめられています。たとえば、近年の文科省では「遊びを通した学び」という表題が掲げられ、遊びによる幼児教育と小学校教育の接続改革が行われています。このように、遊びと発達・学習との間には、深い結びつきがあるのです。
遊びの楽しさと発達との結びつき
先ほどは、遊びが発達や後の学習に与える影響について述べましたが、「遊びの楽しさ」といった要素も、発達と深く結びついています。たとえば、「いないいないばぁ」という遊びを考えてみましょう。
赤ちゃんはこの「いないいないばぁ」を楽しみますが、私たちはこの遊びに楽しさを感じることが難しいはずです。それは、「いないいないばぁ」の楽しさには、「モノの永続性の認識」が深く関わっているからです。この認識がない赤ちゃんは、顔が手で隠れた瞬間、その手の奥にある顔は消失してしまったと理解します。そこで、「ばぁ!」という掛け声とともに手が外され、それまで消失していた顔が突如として表れるので、赤ちゃんはそれに楽しさを覚えるのです。
モノの永続性の認識は一般的に1歳前後で獲得されるため、それ以降は「いないいないばぁ」を楽しむことはなくなります。しかし、モノの永続性の認識を獲得したため、新たな遊びの楽しさを感じることが出来るようになり、そのようにして遊びを発展させていくのでしょう。このように、遊びの楽しさというのは、子どもの発達と深く結びついているのです。
遊びにおけるパフォーマンスの活性化
「遊びになると、子どもが驚くような成果を発揮した」といった現象は、よくみられるものなのではないでしょうか。このような、遊びとパフォーマンスにおける正の関係性については、実証的な研究で明らかとなっています。
たとえばロシアにおける研究では、「食料品店に関係する単語を覚える」という課題について、ごっこ遊びをしながら単語に触れたグループと、単純にその単語群を記憶するように指示されたグループでは、ごっこ遊びのグループの方が記憶できた単語数が多かったことが明らかとなっています。
このように、非遊び的な状況よりも遊び的な状況において、子どもは高い能力を発揮します。そのため、遊びという活動は、子どもの発達の源であるといえるかもしれません。いずれにせよ、子どもの発達における高いアドバンテージが、遊びという活動には内在しているのです。

子どもの発達を踏まえた支援方法
これまでは、遊びと子どもの発達と密接な関係性について述べてきました。それでは、子どもの発達を踏まえて、大人は子どもの遊びをどのように支援していけばよいのでしょうか。
子どもの遊びを豊かにする
本ブログの冒頭において、「子どもには遊びを発見する力が宿っている」という言葉を紹介しました。これを正しいことだとしても、子どもの力だけで到達できる遊びには、ある程度の限界があるのではないでしょうか。子どもの遊びを(発達的な観点から)より豊かにしていくためには、大人の支援が求められることでしょう。
たとえば、「積み木遊び」について考えてみましょう。はじめ子どもは、ただ単純に積み木を積み上げること自体を楽しんでいるだけかもしれません。もちろん、それだけでも手先の運動などとして、発達的な機能は見込めるものでしょう。しかしたとえば、大人が「何を作っているの?」と声かけを行うことで、子どもはその積み木に「表象」を行うように刺激されるかもしれません。つまり、それまではただの積み木だったものを、「家」や「橋」などの具体的な事物の「表象(シンボル)」として認識し、ある種の「見立て遊び」として、「積み木遊び」を豊かに楽しむことができるのです。
このような支援によって、子どもは「積み木遊び」を豊かに発展させることができ、新たな楽しさを経験することができるしょう。さらに教育的な視点でいえば、このような支援によって「表象」や「想像力」といった資質の発達が促進されるのです。
身体的障碍をもつ子どもへの支援
このような大人による支援は、身体的障碍を持つ子どもにおいて特に重要となってきます。そのような子どもたちには、身体的な制約から遊びの機会が少なくなるリスクがあります。しかし適切な支援により、遊びにおける障碍の影響を軽減することが可能となるのです。
程度にもよりますが、障碍を持つ子どもの遊びと、定型的な発達をしている子どもとの遊びとの間には大きな違いがあるでしょう。障碍を持つ子どもの遊びでは、身体的な制約から遊びたいことができなかったり、またある身体的機能が乏しいために、そもそもその遊びの発見に至らなかったりといった事態が考えられます。しかし、これらの事態は大人の支援によって改善することが可能です。大人が身体的な操作を補助したり、子どもひとりでは発見に至らない遊びを導入したりすることで、子どもの遊びを支援することができるでしょう。
遊びの機会が減少することは、遊びを通して培われる様々な資質の発達に、大きな負の影響を及ぼします。それを防ぐためには、まずは保護者の遊びへの積極的意識が求められるでしょう。障碍があるからといって遊びに消極的になってしまうのではなく、障碍の程度に応じて、出来る範囲で支援を行っていくことが重要になります。
ヴィゴツキーの遊び理論
これまで、子どもの遊びを大人がどのように支援できるかについて述べてきましたが、そのような子どもの発達における大人の役割を強調したのが、ロシアの心理学者であるヴィゴツキー(1896-1934)でした。ここでは最後に、そんなヴィゴツキーによる遊び理論について紹介していきます。
ヴィゴツキーの「ごっこ遊び」
幼児教育では多様な形態の遊びが重要となりますが、ヴィゴツキーがその中でも特に重視したのが「ごっこ遊び」でした。しかし、ヴィゴツキーによる「ごっこ遊び」は、一般的なものとは少し異なります。
ヴィゴツキーは、「ごっこ遊び」の要素として1. 想像上の状況を創り出す、2. 役割を演じる、3. 役割のもとでの一定のルールに従うことを定めました。1.と2.については、典型的なごっこ遊びにもみられる要素ですが、ヴィゴツキーが強調したのは3.における「ルールへの従属」の重要性でした。衝動的な行動による遊びとは対照的に、「ごっこ遊び」をルールに従うことを通じて「自己を調整する力」を発達させるものとしてヴィゴツキーは考えたのです。
さらにヴィゴツキーの弟子は、「成熟した遊び」概念を提唱し、認知的発達において適切な「ごっこ遊び」の姿について定めました。たとえば「成熟した遊び」では、「医者が患者を診察する」といった役割の関係性が中心となるシナリオが採用され、「医者は患者に対して丁寧な言葉遣いをする」といったルールの遵守がみられます。このような「成熟した遊び」を通して、子どもは「表象」や「抽象的な思考」、「自己を調整する力」を発達させていくのです。
「ごっこ遊び」における大人の役割
ヴィゴツキーは上記の「ごっこ遊び」の発達における、大人の役割の重要性を強調しています。たとえば、想像上の状況を創り出すにしても、現実世界においてある程度の経験をしていなければそれは不可能です。また、役割やそれに伴うルールについての知識がなければ、「成熟した遊び」は成立しえません。
そこで、大人による支援が必要となってくるのです。現実世界において多様な経験をさせたり、そこでのやり取りについて子どもと話し合ったりすることで、子どもは「ごっこ遊び」に必要な知識を構築していきます。また、「ごっこ遊び」のやり方についても、一緒に遊びながら支援していくことが求められるでしょう。
おわりに
本ブログでは、「子どもの遊びを大人がどう支援すればよいのか」について述べてきました。最後に強調しておきたいのは、子どもの遊びを支援するというのは、決して「完成された遊び」を押し付けることではないということです。遊びの主体は子どもであり、遊びは子どもによって創り上げられていくものです。
さまざまな試行錯誤を通して、子どもは自身の資質を発達させていきます。その試行錯誤を奪ってしまうのではなく、子どもの遊びを見守りながら、その遊びが少しでも豊かになるように、適切な支援を行っていくことが求められることでしょう。
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