絵本の読み聞かせは小学校受験の土台をつくる ─語彙力・思考力・情緒を育む「名門校合格への家庭教育」

目次
はじめに
小学校受験のご相談を受けるなかで、私が必ずお尋ねする質問があります。
「ご家庭で絵本の読み聞かせは、どのくらいしていらっしゃいますか?」
この質問をすると、多くの親御さんが「あまりできていなくて……」と不安そうな表情を浮かべます。共働きで忙しいご家庭、ペーパー対策に追われるご家庭、そもそもどんな絵本を選べばよいか分からないご家庭——さまざまなお悩みをお聞きしてきました。
ここでお伝えしたいのは
読み聞かせの量と質は、語彙力・理解力・行動観察・面接——小学校受験のすべての領域に直結する「家庭教育の質」そのものを映し出します。
本記事では、科学的な研究成果と実践的なノウハウの両面から、読み聞かせがなぜ小学校受験に不可欠なのか、そして具体的にどう実践すればよいのかを解説します。
第1章 読み聞かせが小学校受験に効く科学的根拠
語彙力が「3倍」伸びる——研究が示すエビデンス
東北大学の川島隆太教授らによる研究では、「読み聞かせをされた子どもは、されていない子どもと比べて3倍相当の語彙の伸びがみられた」という結果が報告されています。
なぜこれほど差がつくのでしょうか。その理由は、絵本に含まれる言葉の質にあります。
絵本には、日常会話では使われにくい高度な表現が豊富に含まれています。
- 感情を表す言葉:「しんみり」「うっとり」「むずむず」「わくわく」
- 状態を表す言葉:「そっと」「ひっそり」「ざわざわ」「しーん」
- 動作を表す言葉:「くたびれる」「ぐったり」「すやすや」「とぼとぼ」
これらの表現は、小学校受験のペーパー問題——特に「お話の記憶」「お話の内容理解」において頻出するものばかりです。
文部科学省の調査が示す「読み聞かせと学力の相関」
文部科学省が実施した「全国学力・学習状況調査」の保護者調査では、小さいころに読み聞かせをしてもらった子どもは、国語・算数ともに正答率が高いという結果が示されています。
読み聞かせの効果は「国語力」にとどまりません。算数の文章題を解くためにも、問題文を正確に読み解く力が必要です。読み聞かせで培われた語彙力・読解力は、すべての教科の土台となるのです。
第2章 小学校受験の各試験と読み聞かせの関係
ペーパー試験——「お話の記憶」は読み聞かせで決まる
小学校受験のペーパー試験で、ほぼすべての学校が出題する「お話の記憶」。音声や先生の朗読で物語を聞き、設問に答える形式です。
この問題で問われる力は、まさに読み聞かせで培われるものばかりです。
- 集中して聞く力:長い話を最後まで聞き続ける持久力
- 場面を想像する力:音声情報から視覚的なイメージを構築する力
- 順序を記憶する力:物語の展開を時系列で整理して記憶する力
- 登場人物の気持ちを理解する力:なぜそのような行動をとったのかを推測する力
ある合格者の保護者はこうおっしゃっていました。「娘はお話の記憶がとても得意でした。物語の主人公になったつもりで聞くから、全部覚えられるのだそうです」——これこそが、読み聞かせで培われた「物語に入り込む力」です。
行動観察——「聞く力」と「協調性」の源泉
行動観察では、グループ活動を通じて社会性やコミュニケーション能力が評価されます。
読み聞かせを習慣的に受けてきた子どもには、次のような特徴が見られます。
- 先生の指示を最後まで集中して聞ける
- 言葉だけで状況を理解し、行動に移せる
- 相手の話を遮らず、順番を待てる
- 困っている友達の気持ちに気づき、声をかけられる
絵本の登場人物に共感する経験の積み重ねが、現実の人間関係でも「思いやり」として発揮されるのです。
面接試験——「自分の言葉で話す力」が試される
面接では「好きな絵本は何ですか?」「その絵本のどこが好きですか?」といった質問が定番です。
学校側は、この質問を通じて以下のことを見極めようとしています。
- 家庭での読み聞かせの習慣があるか
- 親子のコミュニケーションが豊かであるか
- 自分の感情や考えを言葉で表現できるか
読み聞かせの後に親子で感想を話し合う習慣がある子どもは、「この絵本のこういうところが好き」「○○ちゃんがこうしたのは、きっと△△だからだと思う」と、自分の考えを論理立てて話すことができます。
これは付け焼き刃では身につかない力です。面接官は多くの子どもを見てきたプロですから、日頃から親子で本について語り合っている家庭とそうでない家庭の違いは、すぐに分かります。
第3章 「ダイアロジック・リーディング」——対話型読み聞かせの実践法
ダイアロジック・リーディングとは
「ダイアロジック・リーディング」とは、ニューヨーク州立大学のホワイトハースト博士らが開発した対話型の読み聞かせ手法です。ハーバード大学でも研究され、「伝える力」「思考力」「読解力」を育む方法として世界的に注目されています。
従来の読み聞かせは、親が一方的に読み、子どもが静かに聞くスタイルでした。しかしダイアロジック・リーディングでは、読みながら子どもと対話することで、より深い理解と言語発達を促します。
PEERの4ステップ
基本は「PEER」と呼ばれる4つのステップです。
【P】Prompt(発言を促す) 絵本を読みながら質問を投げかけます。「このうさぎさん、どんな気持ちかな?」「次はどうなると思う?」
【E】Evaluate(評価する) 子どもの発言に肯定的に反応します。「そうだね、悲しそうな顔をしているものね」「いい考えだね!」
【E】Expand(拡張する) 子どもの発言に情報を付け加えます。子どもが「泣いてる」と言ったら、「そうね、お友達がいなくなって寂しくて泣いているのかもしれないね」と言葉を広げます。
【R】Repeat(繰り返す) 拡張した表現を子どもに繰り返してもらいます。これにより、新しい語彙や表現が定着します。
小学校受験に効く「3つの黄金問いかけ」
PEERを踏まえた上で、特に効果的な問いかけを3つご紹介します。
① 「この子はどうしてこう思ったのかな?」 → 登場人物の心情を推測する力を養います。
② 「次はどうなると思う?」 → 物語の展開を予測する力、論理的な推論力を育てます。
③ 「もし○○ちゃんだったらどうする?」 → 自分の考えを言葉で表現する力を鍛えます。
第4章 年齢別・読み聞かせの実践ポイント

0〜2歳:「絵本は楽しい」という体験を積む
この時期は、内容を理解させようとする必要はありません。「絵本を読んでもらうことは楽しい」という感覚を育てることが最優先です。
絵本選びのポイント
- 色鮮やかではっきりとした絵の絵本
- 繰り返しのリズムがある絵本
- 触って楽しめるしかけ絵本
2〜3歳:言葉への興味を引き出す
言葉の爆発期を迎えるこの時期は、絵本を通じて語彙を増やす絶好のチャンスです。
読み聞かせのコツ
- 「これは何かな?」と簡単な問いかけを始める
- 子どもが言葉を繰り返したら、たくさん褒める
- 同じ本を何度読んでも、むしろ歓迎する
3〜4歳:物語を楽しみ、想像力を育てる
ストーリーを追える力がついてくる時期。少し長めの物語絵本にもチャレンジしましょう。
読み聞かせのコツ
- 「どうしてこうなったのかな?」と因果関係を考えさせる
- 読み終わったら感想を聞く習慣をつける
- 日常生活と絵本の内容をつなげて話す
4〜6歳(受験準備期):「聞く力」と「話す力」を本格的に鍛える
小学校受験を控えた時期は、意識的に力を育てましょう。
絵本選びのポイント
- 昔話・日本の民話(桃太郎、浦島太郎、かぐや姫など)
- 季節の行事や自然を扱った絵本
- 友情、思いやり、協力をテーマにした絵本
読み聞かせのコツ
- 読み終わったら「ミニクイズ」を出す習慣をつける
- 「どこが一番面白かった?どうして?」と理由を聞く
- ダイアロジック・リーディングの「3つの黄金問いかけ」を活用する
第5章 読み聞かせで身につく「受験必出」の知識
季節・行事の知識
小学校受験では季節に関する問題が頻出します。季節に合わせた絵本を読むことで、知識が実感を伴って定着します。
- 春:ひなまつり、桜、チューリップ、ちょうちょ
- 夏:七夕、海水浴、花火、すいか、かぶとむし
- 秋:お月見、紅葉、どんぐり、さつまいも
- 冬:クリスマス、お正月、節分、雪遊び
昔話・民話の常識
以下の昔話は必ず読み聞かせておきましょう。
桃太郎/浦島太郎/かぐや姫/一寸法師/さるかに合戦/花咲かじいさん/かさじぞう/おむすびころりん/つるの恩返し/うさぎとかめ など
第6章 読み聞かせの「NGポイント」
❌ 「教え込み」の姿勢で読まない
「この言葉覚えてね」「ここ、テストに出るよ」——これは逆効果です。読み聞かせが「勉強」になると、子どもは絵本を楽しめなくなります。
❌ 途中で質問攻めにしない
質問は効果的ですが、物語の流れを遮りすぎると集中できなくなります。読み終わってからの対話をメインにするのも一つの方法です。
❌ 「毎日やらなければ」と義務感で読まない
イライラしながら読んでいると、その気持ちは子どもに伝わります。疲れている日は短い絵本を1冊だけ。大切なのは細く長く続けることです。
❌ 子どもの「同じ本」リクエストを拒否しない
繰り返し読むことで、子どもは言葉やストーリーを深く理解します。同じ本を何度でも喜んで読んであげてください。
第7章 名門校が読み聞かせを重視する理由
学校説明会では、多くの名門校が「ご家庭での読み聞かせ」について言及します。
それは、読み聞かせの習慣が「家庭の教育姿勢そのもの」を映し出すからです。
読み聞かせを継続している家庭には、次のような特徴があります。
- 親が子どものために時間を惜しまない
- 親子のコミュニケーションが豊かである
- 子どもの知的好奇心を日常的に育んでいる
- 入学後も、子どもの学びを家庭で支えていく姿勢がある
名門校は6年間という長い時間をかけて子どもを育てます。求めるのは「入学試験の点数」だけではなく、「この家庭となら、一緒に子どもを育てていける」という信頼感なのです。
第8章 今日から始める読み聞かせ習慣
1日10分から始める
朝の5分、寝る前の5分でも構いません。短くても毎日続けることが大切です。
時間を固定する
おすすめは就寝前。「歯磨き→トイレ→絵本→就寝」というルーティンを作ると、子どもも自然に読み聞かせを待つようになります。
読んだ後の対話を大切にする
読み終わったら、1〜2問のミニクイズや感想を聞きましょう。
- 「主人公の名前は何だった?」
- 「○○は最後にどうなった?」
- 「どこが一番面白かった?」
正解したときは「すごいね!ちゃんとお話を聞いていたね!」と具体的に褒めましょう。
図書館を活用する
多くの図書館では1回に10冊以上借りられます。司書さんに「小学校受験を控えた子どもにおすすめの絵本」を相談することもできます。
おわりに
読み聞かせは「もっとも簡単で、もっとも効果の高い家庭教育」です。
特別な教材も、高額な費用も必要ありません。必要なのは、絵本と、親子で過ごす10分間の時間だけ。
その10分間の積み重ねが——語彙力を育て、思考力を育て、聞く力を育て、想像力を育て、情緒を育て、そして親子の絆を深めていきます。
小学校受験は決してゴールではありません。読み聞かせで培った力は、その先の長い学びの道のりを支える土台となります。
本は宝箱です。今日の10分が、お子さまの未来を開く鍵になることを信じて、ぜひ今晩から読み聞かせを始めてみてください。
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参考文献
【主要文献】
- 加藤映子『思考力・読解力・伝える力が伸びる ハーバードで学んだ最高の読み聞かせ』(かんき出版、2020年)
- ジム・トレリース『読み聞かせハンドブック』(The Read-Aloud Handbook)
【学術論文・研究資料】
- 雨越康子「幼児期における絵本の読み聞かせと認知能力との関連」
- Whitehurst, G.J. et al.「Accelerating Language Development Through Picture Book Reading」
【専門機関の資料】
- 文部科学省「全国学力・学習状況調査」
- 文部科学省「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」(平成30年度)
- 国立青少年教育振興機構「子どもの生活力に関する実態調査」
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